日本酒の製造過程で作られるもろみを原料とする酒かすは、古来愛されている発酵食品のひとつ。肉・魚・野菜などを漬け込むかす漬け、具だくさんのかす汁など料理にも広く活用できますが、一番手軽な摂り方はやはり甘酒にして飲むこと。
食後や就寝前に飲む1杯の酒かす甘酒が、検査値の安定と体調管理の味方になってくれます。
目次
1.酒かす甘酒の健康効果とは?
甘酒は米麹で作るものと、酒かすで作るものに大きく分けられます。ブドウ糖が多く含まれているので、疲労回復によいとされるのは米麹甘酒。
一方、血糖・血圧・コレステロールなどの数値を整える発酵飲料として、脚光を集めているのが酒かす甘酒です。酒かすにはビタミンB群やアミノ酸が豊富であるほか、最新の研究によって、特有の健康成分がさまざま含まれていることがわかってきました。
1-1.血糖値を安定させる
食事で摂取したデンプンは、消化酵素であるα‐アミラーゼによってブドウ糖に分解されます。その後、ブドウ糖は血液中に流れ込んで、筋肉や内臓のエネルギー源として活用されます。
問題なのは、食べ過ぎや運動不足などが重なると、血液中にブドウ糖が余ってだぶついてしまうこと。これがすなわち、現代人の多くがおちいっている高血糖です。
そこで注目したいのが、酒かす甘酒のうれしい効用。酒かすはα‐アミラーゼの働きを阻害して、デンプンから作られるブドウ糖の量を抑制し、血糖値の極端な上昇を抑えます。つまり、高血糖の大もとの原因を断つわけです。
酒かすにインスリンと似た物質が含まれていることも、血糖値の安定には見逃せません。インスリンとはすい臓から分泌されるホルモンで、血液中のブドウ糖を筋肉や内臓の細胞に届けて、血糖値を下げる役割があります。酒かすはこのインスリンの働きをサポートして、ブドウ糖がすみやかに運搬されるように促し、血糖値をおだやかに整えます。
1-2.血圧を安定させる
血管の細胞内にあるACEという酵素には、血管を縮める物質を作り出して、血圧を上昇させる作用があります。酒かすに含まれているペプチドは、このACEの過剰な働きを抑制することが確認されています。ペプチドとは、酒かすに豊富なアミノ酸が結びついたものです。
ペプチド効果によって血管が適度にゆるんで、血液の流れがおだやかになれば、血圧はおのずから落ち着いていきます。そのほか、酒かす特有の成分として、ウロキナーゼという酵素が血液の小さな塊である血栓を溶かすこと、酵母が血管を柔らかくすることもわかっています。こうした作用によって血液循環がスムーズに維持されることも、血圧安定の重要なカギといえるでしょう。
1-3.コレステロールを安定させる
血液中の脂質であるコレステロールは、増えすぎると血管壁に潜り込んでゴミとなってたまり、血管の老化である動脈硬化を引き起こします。このコレステロール対策に頼りになるのが、酒かすに含まれているレジスタントプロテインという成分。レジスタントプロテインはタンパク質の一種で、胃腸で消化されにくく、コレステロールのような脂質とくっつきやすいという特徴があります。
そのため、酒かすを摂取すると、レジスタントプロテインが腸内までダイレクトに到達。そこでコレステロールを吸着した後、便と混ざり合って体外に排出されていくのです。レジスタントプロテインはそばなどからも摂取できますが、酒かすに含まれているものはとりわけ脂質とくっつきやすく、このようにコレステロールの排出サイクルを高めてくれます。
1-4.腸内環境を整える
先の項目で述べたレジスタントプロテインの働きによって、便の中に脂質が多く含まれると、便そのものが柔らかくなって排出しやすくなります。うんと力まないと便が出ない、便がカチカチで出しづらいなどのお悩みがある方には、酒かすの活用がすすめられます。
さらにレジスタントプロテインの特徴として、善玉菌を増やして腸内環境を整える作用も明らかになっています。善玉菌が増えると腸内での有害物質の発生が抑えられて、便やガスの悪臭がやわらいでいきます。
1-5.骨の強度を維持する
中高年以降に骨の強度が弱くなる原因として、骨の組織を壊すカテプシンLという物質の作用が指摘されています。カテプシンLの分泌量が年齢とともに増えると、新たな骨の合成よりも、古い骨の破壊の方が優位になって、骨の密度がスカスカになってしまうのです。
このカテプシンLの働きを弱める物質が、日本酒を造る麹の中から見つかっており、それは酒かすの中にも含まれていることがわかりました。そのため、酒かすを継続的に摂ることで、骨の強度の維持に役立つことが期待されています。
1-6.睡眠の質を高める
酒かすに含まれている清酒酵母には、眠気を誘う脳内物質であるアデノシンを活性化させる作用があることがわかっています。その結果、脳内のアデノシンの濃度が高まると、寝つきがよくなる、深く眠れるなど睡眠の質が向上してくのです。
実際にこれまでの研究によると、清酒酵母を摂取すると熟睡時に現れる脳波が増大し、睡眠中に分泌される成長ホルモンの量もアップしたとのこと。起床した後に疲れや眠気が残っていないなど、熟睡感が得られたことも合わせて報告されました。
甘酒を飲むとよく眠れるのはアルコールの影響では?と思われるかもしれませんが、実は酒かすそのものに睡眠の質を高める効能があるのです。
1-7.体を温める
酒かすで作った甘酒を飲んだら、すぐに体が温まってきたという経験をお持ちの方も多いかもしれません。その理由として考えられるのは、酒かすを摂取したことで、縮んでいた末梢血管が拡張して血行が盛んになったということ。そもそも、血管が柔らかく拡がるときには、血管の細胞で作られる一酸化窒素というガスの働きが不可欠です。一酸化窒素には血管の筋肉をゆるめて、血流量を調整する役割があるのです。
これまでの研究から、酒かすはこの一酸化窒素の産生を高めて、血管の拡張を促すことがわかってきました。そうなれば自然と血行が盛んになり、手足までポカポカと温感が伝わるようになります。酒かすのタンパク質をもとに体内で作られる酒かす分解ペプチドに、こうした特徴的な作用があると考えられています。
2.酒かす甘酒の材料と作り方
酒かすの旬は新酒ができあがる冬ですが、スーパーや酒店などでは年間売られていますし、酒蔵の通信販売でも入手できます。秋・冬は熱々のまま、春・夏は冷やして酒かす甘酒をいただきましょう。
2-1.酒かす甘酒の材料(3~4杯分)
・酒かす……100g
・水……400~500ml
・砂糖……大さじ4(好みで調節する)
・塩……ひとつまみ
【ワンポイントアドバイス】
・酒かすの風味は、もともとの原料になる日本酒の種類によって異なります。米を削る割合が多い吟醸酒、大吟醸酒の酒かすは香りが上品。一方、米をあまり削らずに作る純米酒の酒かすは独特のうま味が強く、健康成分も多く含まれているといわれています。
2-2.酒かす甘酒の作り方
- 酒かすを溶けやすくするために手で細かくちぎるか、包丁でさいの目に切る
- 鍋に水を入れて弱火にかけて、酒かす、砂糖、塩を入れる。
- 適宜かき混ぜながら温めて、沸騰したら火を止めてできあがり
【ワンポイントアドバイス】
・時間があれば、鍋に入れた水に酒かすを漬けて、ときどきかき混ぜながら半日~丸1日置くとよいでしょう。その後で火にかけると酒かすがよく溶けて、まろやかなできあがりになります。
・お酒が苦手な人や未成年の人は、火に長くかけて酒かすのアルコール分を飛ばすとよいでしょう。
3.酒かす甘酒の飲み方のコツと保存法
酒かす甘酒を毎日の健康習慣に取り入れて、無駄なく飲むために心がけておきたいポイントをご紹介します。
3-1.酒かす甘酒を飲むタイミング
ブドウ糖の吸収を抑えたり、睡眠の質を高める酒かす甘酒の効用を考えると、飲むタイミングとしては夕食後や就寝前がおすすめ。夜のリラックスタイムに、湯飲みやマグカップで1~2杯を飲みましょう。
なお、さほど強くはないにしても、酒かす甘酒にはアルコールが残っています。そのため、朝食時など1日の活動を始めるときや、車の運転をする前、運動をする前などは飲用を控えるようにします。
3-2.酒かす甘酒と余った酒かすの保存法
飲みきれずに残った酒かす甘酒は冷蔵庫で保存して、飲むときには冷やしたままか、またはレンジで加熱します。3日以内に飲み切るようにしましょう。
封を開けた酒かすを保存する場合は、保存用のジッパー付きの袋に入れて、空気を抜いてから冷蔵庫に置くこと。保存期間の目安は3~6カ月ですが、時間がたつと酒かすは熟成が進んで、色が黄色→ピンク→褐色に変化していきます。甘酒に適したフレッシュな状態でいただくには、やはり早めに使い切るのがいいでしょう。
酒かすをたくさん購入したときは、冷凍保存することもできます。ラップやビニールに包んで冷凍庫に入れて、使用するときは自然解凍させます。冷凍した場合は1年を目安に使い切りましょう。
4.酒かす甘酒の健康効果を高めるひと工夫
そのまま飲んでもおいしく、体にいいことが盛りだくさんの酒かす甘酒。さらにひと手間を加えると風味に飽きが来なくなり、健康効果もさらに補強されます。
4-1.ココアを入れる
酒かす甘酒にココア粉末をスプーン1杯加えて、よくかき混ぜてから飲みましょう。ココアに含まれるカカオポリフェノールは、糖の安定に役立つとして注目されている成分。血液中の糖を細胞に届けるインスリンの働きを高めてくれるのです。もちろん、ココアは砂糖が含まれていない純ココア(ピュアココア)がおすすめです。
4-2.ショウガの絞り汁を入れる
できあがった酒かす甘酒に、おろしたショウガの絞り汁を適量加えます。ショウガ独特の辛み成分であるショウガオールやジンゲロンは、胃腸の血管を膨張させて血行を盛んにし、お腹をポカポカ温めてくれます。
酒かすによる血行促進の作用がさらに高められるため、日ごろから体の冷えに悩んでいる方にうれしい甘酒です。
4-3.豆乳で作る
水のかわりに豆乳で酒かすを溶いて、コクのある甘酒を作ります。砂糖や塩などが加えられていない無調整豆乳を用いるとよいでしょう。豆乳に含まれる大豆タンパクやビタミンB1は、糖のエネルギー代謝を促進してくれます。
また、豆乳は骨の材料になるカルシウムや、女性ホルモンと似た働きをするイソフラボンも豊富で、これらの成分が酒かすと同様、骨の強度の維持に役立つと期待されています。
5.まとめ
くわしい研究が進めば進むほど、効能豊かな発酵食品と評価が高まるばかりの酒かす。酒蔵や日本酒のタイプごとに風味も異なるので、どんな酒かすが自分の好みか、甘酒にして飲みくらべてみるのもおすすめです。夜のくつろぎの時間においしく飲むうちに、全身すみずみにその健康効果が行き渡っていくことでしょう。
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