近年の研究で、良質な睡眠をとることで様々なパフォーマンスの向上が期待できるという研究報告がされています。そして、この研究の中で睡眠不足は中性脂肪をあげることがわかったのです。
では、実際にどのような関係があるのかをここで説明していきます。
1 睡眠不足で中性脂肪はあがりやすくなる?!
睡眠不足に陥ると、ホルモンや脳機能の関係から中性脂肪は上がりやすくなってしまいます。この章ではその理由を詳しく説明していきます。
1-1 ホルモンとの関係
寝不足に陥るとホルモンバランスが崩れ、結果として中性脂肪値が上がることになります。厄介なのが、寝不足になり乱れるホルモンが脂肪の分解や食欲を制御することに大きく関わっていることです。
1−1−1 食欲を制御するホルモン「レプチン」
スタンフォード大学が発表した調査結果によると、寝不足になると体内のレプチンと呼ばれるホルモンが大幅に減少するそうです(30~60歳の1024人を対象とし5時間睡眠と8時間睡眠で比較した結果5時間睡眠ではレプチン量が15.5%減少)
レプチンとは脂肪細胞が分泌するホルモンであり、交感神経活動亢進によるエネルギー消費増大をもたらすことで、肥満の抑制や体重増加の制御を行う役割があります。
つまりレプチン量が減少すると、食べるべきではないとわかっていても誘惑に負けやすくなります。
1−1−2 脂肪を分解してくれる成長ホルモン
最も多くホルモンを分泌するには夜22時から深夜2時の間に眠ることです。また成長ホルモンが多く分泌されるのは眠りについてから最初の約3時間で、特に眠りについてから最初の約90分間に迎える徐波睡眠(最も深い睡眠状態)の時に分泌量は最も多くなります。
ではなぜ、夜22時から深夜2時までに眠るとよいのか。それは睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌量が減少し始めて深部体温が上昇し始める深夜3時頃~5時頃を境に、それ以降の時間は深い眠りにつきにくくなるためです。よって深い眠りに入り最大のホルモン分泌量を得るためには夜22時から深夜2時の間に眠っている必要があるというわけです。
1-2 脳機能との関係
寝不足は脳機能にも影響を及ぼします。寝不足に陥ると、脳の優先順位付けが低下することで扁桃体部分の活動が活発になり(カリフォルニア大学バークレー校で撮影された脳画像スキャンから判明)、疲れてお腹が空いたような状態となる。そして「生存」を何より優先するようになります。この様な状態になると、素早くカロリーを摂取できる高カロリーなお菓子などに手が伸びてしまい、中性脂肪値も上昇してしまいます。
また、扁桃体が活発になる一方で、前頭皮質や島皮質の活動は抑制されます。この2つは、進化や自制、意思決定に関係が深い脳の部位です。つまり、寝不足になっているとカロリーを摂取したいと強く思うようになり、それを自制しようとする意思は非常に弱っているような状態となります。このような状態で、高カロリーな食べ物の誘惑に抗うのは難しいでしょう。
以上のことから、寝不足になると成長ホルモン、レプチンの分泌が減少し、脳機能に変化が現れます。その結果、食欲があがり脂肪の分解能も落ちます。つまり寝不足になると中性脂肪が溜りやすくなるということです。
2 良質な睡眠で中性脂肪を下げましょう!!
ここまでで、寝不足に陥るとなぜ中性脂肪値が上がってしまうのかを理解したと思います。
では寝不足を解消し中性脂肪の上昇を防ぐにはどうしたらよいのでしょう。それは良質な睡眠をとるように心がけることです。
この章では良質な睡眠をとるための方法を紹介します。
2-1 就寝時と就寝に向けてのスタイルを見直す
良質な睡眠をとるためには就寝に向けて朝の段階から準備しなければなりません。また就寝時にも気をつけなければならないことも多くあります。ここでは、そのような就寝に向けての準備や心がけを紹介したいと思います。
2-1-1 睡眠に必要なホルモンのサイクルを整える
重要なことは、太陽光を浴びることです。太陽光には日中に分泌されるべきホルモンや体内時計を調節する物質の生成を促す働きがあります。睡眠に関係してくるホルモンとしては、まずメラトニンがあります。メラトニンは熟睡を促すホルモンです。
そしてもうひとつにコルチゾールがあります。コルチゾールは覚醒作用をもたらしてくれるホルモンです。コルチゾールは朝になると次第に増加し、夜に向けて減少していきます。このコルチゾールですが、実はメラトニンと反比例の関係にあります。片方が増えると片方が減少します。つまり適切な片方が適切な分泌リズムであればもう一方も適切なリズムになるということです。この2つのホルモンの分泌リズムを正常にすることで快眠へと繋がりますし就寝しやすくなるのではないでしょうか。
図1 1日におけるメラトニンのリズム (本間研一著「日本臨床66巻増刊2号2008」生体リズムの基礎知識より) コルチゾールはこのグラフとはほぼ逆になります。 |
2-1-2 電子機器使用の制限
スマートフォン、タブレット、パソコンなど手放すことが難しいものですが、これらはブルーライトと呼ばれる光を放っています。このブルーライトですが、コルチゾールの分泌量を上げる効果を持っています。つまり寝つきが悪くなるということです。夜寝る前に、タブレットなどで読書するのも良いが、就寝前に限れば紙の本を読んだ方が賢明です。
2-1-3 就寝時の光に注意する
寝る際のわずかな光も人体は感じ取ります。それは皮膚に光を感知する受容体が存在するためです。光を感知することで、メラトニンの分泌量が変化するとコーネル大学の研究チームが発見しました。深い睡眠をとるためにはわずかな光もない状態で寝ることが重要なのです。
デジタル時計の使用をやめることや遮光カーテンを使うのも良いでしょう。
2-1-4 マインドフルネスを取り入れる
アメリカ睡眠学会は実際に瞑想には睡眠を改善させる効果があるという実験結果を報告しました。その実験は病気を抱える人に2か月にわたり瞑想を行わせ、寝つきまでの時間、就寝後からの睡眠時間、就寝後からの目が覚めている時間、目が覚めた回数、睡眠効率、睡眠の質、気分の落ち込みなどを計測したものです。いずれの項目も好転したとのことです。
また「メディカルサイエンスモニター」誌によると、瞑想に慣れている人の方が慣れていない人よりもメラトニンの基準値が高いとの報告もありました。
不眠症などの人には副作用があるような不眠治療薬に頼るのではなく副作用が一切ないマインドフルネスがおすすめです。
2-1-5 カフェイン摂取は控える
有名な話ですがカフェインには、眠気の解消や疲労回復などの効果があります。年齢や健康状態などでかわりますが、このカフェインの半減期は約5時間程度と言われています。この半減期を意識しながらカフェインの摂取は行うべきでしょう。
ちなみにカフェインの適正限度は体重1kgにつき5.7mgです。体重60kgの人で342mgとなります。半減期を意識せずにカフェインを摂取するとすぐに限度を超えてしまい、睡眠に悪影響が出るでしょう。快眠を得ようと思うのならば、摂取してもよい時間を決めたほうがよさそうです。即座にカフェイン絶ちが難しいのであれば、カフェインレスのお茶や紅茶、ノンカフェインの飲料を摂るように心がけることも一つの手です。参考までに主なカフェインを含んだ飲料とそのカフェイン含有量を示しておきます。
表1. 各飲料中のカフェイン濃度
飲料 |
カフェイン濃度 |
備考 |
エナジードリンク |
32~300mg/100ml |
製品により異なる |
コーヒー(浸出液) |
60mg/100ml |
浸出法:コーヒー粉末10 g、熱湯150 mL |
インスタントコーヒー(粉末) |
2g使用で、1杯あたり80mg |
|
煎茶(浸出液) |
20mg/100ml |
浸出法:茶葉10 g、90℃湯430 mL、1 分 |
ほうじ茶(浸出液) |
20mg/100ml |
浸出法:茶葉15 g、90℃湯650 mL、0.5 分 |
玄米茶(浸出液) |
10mg/100ml |
浸出法:茶葉15 g、90℃湯650 mL、0.5 分 |
烏龍茶(浸出液) |
20mg/100ml |
浸出法:茶葉15 g、90℃湯650 mL、0.5 分 |
紅茶(浸出液) |
30mg/100ml |
浸出法:茶葉5 g、90℃湯360 mL、1.5~4 分 |
2-1-6 睡眠に大事な栄養素をしっかりと摂取する
睡眠不足解消のためには食事の栄養素も重要になります。おすすめの栄養素とその栄養を豊富に含有した食材を紹介します。ここで重要なのは栄養素を錠剤などではなく食材から得ることです。なぜ大事なのかというと、人は進化の過程を通じて、身体が食べ物から栄養素を吸収できると認識するようになったからです。
表2. 重要な栄養素とその栄養素を含む食品
栄養素 |
食材 |
期待できる効果 |
セレン |
ナッツ、牛肉、鶏肉 |
免疫機能、甲状腺機能の向上 |
ビタミンC |
葉野菜 |
眠っている最中に目が覚めにくくなる |
カリウム |
葉野菜、ブロッコリー、アボカド |
眠りを深くする |
カルシウム |
海藻、ゴマ |
レム睡眠の乱れを調整 |
ビタミンD |
シャケ、マグロ |
日中の眠気防止 |
オメガ3脂肪 |
くるみ、シャケ |
深い睡眠 |
ビタミンB6 |
カシューナッツ、ピーナツバター |
神経系のリラックス |
SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術(ショーン・スティーブンソン著)より参照
3 まとめ
いかがでしたでしょうか。睡眠不足はホルモンの活動と密接に関係し、そして中性脂肪にまで影響を及ぼすことが分かったと思います。
睡眠不足解消には良質な睡眠が必要です。今回、2章で紹介したような方法を試してみてください。そうすることで、睡眠不足、ひいては中性脂肪の上昇も防げるはずです。
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