糖尿病と診断された人にとっては、血糖値の変動が気になるところです。血糖値を下げなければとの思いから、必死になって血糖値を下げてしまう人もいます。しかし、血糖値が低下しすぎると命にかかわる問題になってしまう場合もあります。そのためにも血糖値がどのような役割か、血糖値が少なくなってしまうとどのようなことになるのかを知る必要があります。今回は血糖値が低下した場合について紹介します。
1.血糖値は体には必要不可欠
血糖値を下げなければならないという思いのあまり、極端な血糖値対策を行ってしまう場合があります。しかし、それは間違いです。血糖値は実は体にとっては必要不可欠な存在なのです。
1-1.血糖は体を動かすエネルギー
血糖は体を動かすためエネルギーになります、すなわち体にとっては必要不可欠な存在です。
このため人はこの血糖の量が一定に保たれるようになっており,正常の場合は空腹時で 70~100mg/dlに保たれているのですが、この値よりも高い場合は高血糖,低い場合は低血糖といわれる状態になります。
血糖が上昇するタイミングは食後になります。血糖の成分はブドウ糖です。このブドウ糖はお米や小麦粉、イモ類などの炭水化物が分解されることで作られます。そのため、食後は主食である炭水化物を食べるため、血糖が上昇するのです。
1-2.血糖が使われることで血糖値が低下する
血糖値が上昇すると血糖を一定に下げようとインスリンと呼ばれるホルモンが体から分泌されます。そして、このインスリンの作用により臓器や筋肉のエネルギーとして血糖が取り込まれるので、体内の血糖が下がっていくのです。
2.血糖が低下しすぎると危険
先ほど説明したように、血糖は体を動かすためのエネルギーになります。すなわち血糖がなくなると体はガス欠の状態となり、大変危険な状態となってしまいます。
本来なら体は、血糖値を一定に維持しようとするため、血糖が低下すると体は糖新生と呼ばれる働きを行います。これは体内で蓄えていた栄養を分解して糖を作り出す働きです。しかし糖尿などで薬を飲むなどの外的要因によっては必要以上に血糖が下がり低血糖の状態になってしまいます。
低血糖症状は自律神経への働きによる症状のため、更年期障害やその他の自律神経にかかわる疾患でも同じような症状を示すことがあります。そのため、今起きている症状が低血糖か更年期の症状かの判断が難しくなってしまいます。更年期の症状だと思って放置してしまうと、症状が重くなってから気づくことになります。そのようなことにならないよう、低血糖ではどのような症状が出るかを知るようにしましょう。
低血糖の症状
血糖値(mg/dl) |
症状 |
70 |
空腹感、あくび、吐き気、胸のむかつき |
60 |
発汗、動悸、手指の震え、ほてり、不安感、悪寒 |
50 |
集中困難、脱力感、眠気、めまい、疲労感、ものがぼやけて見える |
40 |
意識障害、異常行動 |
30 |
けいれん、昏睡 |
2-1.最初は交感神経の異常から出てくる
血糖値が 70mg/dl を下回ってくると、交感神経に異常が出てきて段階的に以下のような症状が出てきます。
〇血糖値が70mg/dl 以下
- 空腹感
- あくび
- 吐き気や、胸のむかつき
〇血糖値が60md/dl以下
- 発汗
- 動悸
- 手指の震え
- 体のほてり
- 不安感
- 悪寒
これらの症状は警告症状と呼ばれるものです。これからさらに低下すると「中枢神経症状」と呼ばれる、中枢神経に関わる異常が出てきます。
2-2.血糖値50mg/dlを下回ると中枢神経に異常が出る
血糖値が50mg/dl を下回ると中枢神経での異常で下記のような症状が出てきます。
〇血糖値が50md/dl以下
- 集中困難
- 脱力感
- 眠気
- めまい
- 疲労感
- ものがぼやけて見える
この状態にまでなると、意識障害になってしまい正常な判断ができなくなる可能性もあります。
そして血糖値が 50 mg/dlよりも低くなると、昏睡など意識のないさらに危険な状態になってしまうことがあります。
2-3.最終的に昏睡状態になり、最悪死に至る
血糖値がさらに下がり、40mg/dlを切ってしまうとさらに中枢神経での深刻な異常が出てきます。
〇血糖値が40md/dl以下
- 意識障害
- 異常行動
〇血糖値が30md/dl以下
- けいれん
- 昏睡
この段階ではすでに自身で対処することが難しくなってしまうため、周りの人の理解と協力が不可欠になります。このままの状態で放置すると最悪死んでしまうことがあります。
3.低血糖が起きた時の対処
説明した通り、低血糖の状態のままにしていると最悪の場合死んでしまいます。そのためにも低血糖になった場合の正しい対処方法を知るようにしましょう。
3-1.意識がある場合
低血糖の症状によって対処方法が変わってきます。これは重度の低血糖となってしまった場合、昏睡状態となり意識がなくなってしまうため自分では対処ができなくなってしまいます。できれば自身の意識があるうちに対処を行わなければなりません。
対処方法は簡単で血糖値を上げるためにブドウ糖や砂糖を摂取することです。ドラッグストアや食品を扱っているところならば、飴などと一緒に並んでいます。具体的には、ブドウ糖を5~10g含むものや砂糖を10g、またはブドウ糖を含むジュース150~200mLをとります。ブドウ糖や砂糖以外の糖分はこれらに比べて吸収する速度が遅くなるため注意が必要となります。
15分ほど経過しても症状がよくならない、または血糖値が60mg/dl以下であるようであれば、再度、同じようにブドウ糖や砂糖、ジュースをとりましょう。もし、これでも症状が回復ない場合は、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。
3-2.意識がない場合
意識がない場合は当たり前ですが自分で対応することができません。そのため、低血糖で倒れた場合の処置方法を家族や職場など自分の周りにいる人に処置方法を伝えておかなければなりません。
対処方法は、ブドウ糖を口に含ませてもらったり、飲み込むことが難しければ唇や歯肉に塗りつけてもらうなどの対応をしてもらうようにしましょう。このほかには、グルカゴンを1バイアル(1mg)注射してもらうようにしましょう。また、これらは応急処置になるため、その後すぐに主治医に連絡を取り受診または医療機関を救急受診するようにしましょう。
このように、意識がない場合は周りの人たちの協力が不可欠になります。そのため、身近な人たちに低血糖について理解してもらい、対処ができるよう注射の仕方やブドウ糖の携帯場所について共有しておくことが重要となります。
また、日本糖尿病協会で下の画像のようなカードを配布しています。事故や低血糖で倒れた場合に適切な処置をしてもらうためのカードです。もしもの時に胸ポケットなどのわかりやすい場所に入れておくとよいでしょう。
3-3.無自覚性低血糖症に注意
軽度の低血糖症ならばあまり問題にならないのですが、注意しなければならないことがあります、それが無自覚性低血糖症です。
無自覚性低血糖とは、血糖値が下がっても軽度な低血糖症状があらわれず、そのまま血糖値が下がり意識障害や昏睡などの重篤な中枢神経系の症状が突然あらわれてしまう症状です。
この症状は低血糖を繰り返していることが原因です。軽度の低血糖の状態に体が慣れてしまったため、本来なら体を守る自律神経が機能せず、血糖値を上げようとする反応が出にくくなってしまうのです。そのためにも、低血糖が頻発しないよう低血糖を予防する必要があります。
4.低血糖を予防する
先ほども説明したように、慢性的な低血糖は無自覚性低血糖症を誘発してしまいます。
そうならないためにも低血糖にならないよう予防が必要となります。低血糖にならないためにもまずはその原因を把握するようにしましょう。
4-1.血糖値を自分で測る
低血糖の状態を知るには自分で血糖を測ることが必要ですまずは血糖値測定器を購入しましょう。
4-1-1.血糖値測定器は薬局で購入
血糖値測定器は薬局に打っていますのでそこで購入することをお勧めします。これは血糖値測定器は基本的に下記の4つのパーツに分かれています。
(1) 本体の測定器
(2) テスター(一回ごとに使用する試験紙の様なもの)
(3) ランセット(血液を採取するための針)
(4) 穿刺器(ランセットを指先に押し付けるための機器です)
薬事法改正で血糖値の測定器は「高度管理医療機器」と呼ばれるものに分類されており。測定で使用する針やテスターなどの検査用の用紙は消耗品になります。なくなると購入する必要があるのですが、この薬事法によりテスターと呼ばれる消耗品は薬局でしか買うことができないためです。そのためamazonなどで購入するとテスターがついておらず結局薬局に行くことになってしまいます。
また、インスリンを使用している糖尿病患者は健康保険を使って購入することができるのですが、そこまで悪化していない場合は自己負担で購入することになります。保険適用外ならばおよそ10,000円程度で一式そろえることができます。ただし、先ほどもいったように血糖の測定は消耗品を使用するので、これらがなくなると都度購入する必要があります。
4-1-2.血糖値の測り方
詳しい使い方は購入した測定機によりますが、基本的には同じです。ランセットを指に刺して血を少し出し、それを測定機につけるだけです。また、使用した針は衛生上の問題があるので、同じものを何度も使わないようにしましょう。
5.低血糖の7つの原因
低血糖になる原因は以下の7つの原因が考えられます。
5-1.糖尿病治療薬の量やタイミングの誤り
薬によって血糖値を下げている場合は、量が多すぎて血糖値が下がりすぎる場合があり。また、投与するタイミングによっては血糖がそれほど上がっていない状態で血糖を下げるため低血糖になってしまう恐れがあります。
しっかりと用法と用量を守って薬を使用するようにしましょう。
5-2.摂取量が少ないなどの自身には合っていない不適切な食事
食べている量が少なすぎたり自身の体に合っていない量の食事で済ませてしまうと生活に必要な分の血糖が足りなくなってしまいます。
血糖値が高いと気になって極端な食事制限をしがちですが、血糖は生きる上では必要なエネルギーになりますので決められた量の糖分を摂るようにしましょう。
5-3.普段やらないような激しい運動や、長時間の運動
運動で使う筋肉のエネルギーは血糖になります。このため、普段よりも激しい運動をすると当然ですがいつもより血糖の消費が激しくなるため低血糖になってしまいます。これは長時間運動する場合も同様です。
運動をする場合は基本的に食後にするようにしましょう。そして、激しい運動や長時間運動をする場合はあらかじめいつもより多めに糖分を補給する、もしくは休憩の間に糖分を補給するようにしましょう。
5-4.飲酒
お酒から摂取するアルコールは肝臓の働きを抑えるため、血糖値が下がっても肝臓からブドウ糖が放出されず、低血糖になりやすくなってしまいます。 さらに、アルコールによって肝臓の働きが抑えられると、血糖降下薬の成分が体内に滞りがちになってしまうという影響もあるためさらに血糖が下がってしまう要因にもなります。
低血糖になることを気にする人は、飲酒を控えるようにしましょう。飲む場合でも飲みすぎは厳禁です。アルコールに酔っていると、低血糖の症状に自分では気づきにくく。もし意識を失った場合でも、飲みの席では周りの人は酩酊していると勘違いして処置が遅れる可能性もあるためです。
5-5.入浴
入浴中は、運動と同じでエネルギーを消費するため血糖を下げてしまいます。また、インスリンや血糖降下薬を投与した後に入浴すると、体温が上がり、インスリンの吸収が早まってしまうため低血糖を起こす可能性があります。
入浴する場合は、食後2時間は開けるようにし、空腹時にも入浴はしないようにしましょう。もし、入浴中に低血糖で意識を失った場合は、おぼれてしまう可能性があるため入浴にはくれぐれも注意するようにしましょう。
5-6.ホルモンバランスの変調
女性は月経によって性ホルモンのバランスが変化し、インスリン感受性や食欲、体調など、様々な影響を及ぼすことがあります。特に女性ホルモンの成分であるエストロゲンはインスリンの効きをよくするため低血糖になって今う可能性があります。
5-7.糖尿以外の疾患
血糖を下げるホルモンであるインスリンの大量分泌するインスリンノーマと呼ばれる疾患。もしくは、血糖を上げる役割のコルチゾールが分泌されない副腎不全の場合が高い可能性があります。もし、上記の1~6の中で心当たりがない場合はこれらの疾患になっている可能性があるため、すぐに病院で受診するようにしましょう。
6.まとめ
いかがでしたでしょうか。血糖は生きる上では不可欠なものです、そのため血糖値が低下してしまうと活動に支障をきたしてしまい、最悪の場合は死に至ってしまいます。
そうならないためにも、低血糖の原因をしっかりと把握して対策を立てるようにしましょう。
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